2020年夏期・振り返りワークショップレポート〜第二部①:新しい「中学生モデル」を考える〜

第二部①:新しい「中学生モデル」を考える

新しい「中学生モデル」を考える

若新 インターンを通して変わった大人を見て、みんなは「いろんな生き方と働き方があっていいんだな」って少し思ってくれたと思うんだよね。そういうことを、僕らはよくいろんな働き方や生き方の「モデル」って言っています。

僕はこの中二インターンを通して、大人になるとか、中学生ってこうじゃなきゃいけないっていうモデルは1個じゃなくて、いっぱいあるということを伝えていけたらと思っているんです。

説明しておくと、モデルっていうのは「自分が持っている理想のイメージを簡単に説明したもの」なんです。

僕の中学校はすごく田舎にあって、理想の中学生のイメージが、もう何から何まで全部決められていたんです。「鞄をたすき掛けにして、チャリンコに乗るときは校章がついてるヘルメットをかぶって、雨の日はこの靴を履いて、髪はここで切る」みたいなね。それによって、「まともな中学生はこうあるべき」を、分かりやすく説明できるようにするっていうのがモデル。ぼんやりして分かりにくいものじゃなくて、みんなにはっきりと分かるように説明できるものらしいんですね。

僕の時代もそうだったけど、「うちの中学校の理想の生徒はこれだ」みたいなことを言ってる中学校が多いと思うんです。それが校則になったり、服装の制限になったりする。じゃあ、校則がない中学校はどうかっていうと、“モデルを決めない”っていうのがその中学校の理想のモデルということなんですね。自分で決めていい。

「みんなこうしなきゃいけません」っていう決まりもモデル。「自分で考えていいですよ」っていうのも1つのモデル。なんにしても僕らは、生活してる中で知らず知らずのうちに「これが理想だ」みたいなモデルを学んでいるんですよ。だって、男の子のイケてる髪型とか、最近流行ってるものとか、あるじゃない。僕らの社会の中では、理想がぼんやりしたままだとよく分かんないから、これが理想だっていうのをはっきりさせて、僕らはそういうモデルを参考にして生きてるんです。

そこで、みなさんに考えてほしいのが「新しい『中学生モデル』」。

いままでは、「いいモデルを見つけましょう」だった。見つけられなかったら、親とか先生がいいモデル理想を教えてくれた。でもそうじゃなくて、自分のモデルをみんなが自由に作っていこうと。中二インターンが目指すところは、みんなにとってのいいモデルを見つけることではなく、このインターンに参加した中学生が今後「自分の理想のモデル」を自由に作ってくれたらいいなということなんですね。それは、僕も杉山学長も、きっと藤川先生も大切だと思ってくれていて。

僕は、中二インターンを通して世の中に「こういう形があってもいいんじゃないか」って伝えていけるといいなと思っています。それがみんなのこれからの生活のヒントになるんじゃないかと思っていて、ちょっと難しいかもしれないですけど、今日来てくれたみんなは何か考えてくれるんじゃないかと思ったので、これを持ってきました。

みんながインターンに参加してたときに関わった大人たちは、楽しそうに働いてる人が多かったと思うんですよ。昨日インターンを受けてくれた(企業の)人から「ごめん、中学生にしゃべりすぎちゃいました」みたいなメールが来たんですよ(笑)。でもね、中学生にしゃべりたかったんだって。こんな風に働いてるんだよって。それで、しゃべりすぎちゃったって反省しているみたいなことを言ってましたよ。

でも、それはその人自身がとてもいい感じで働けているということだと思うんだよね。そういう、自分が「これがいいな」って思うような理想のイメージを、みんな自由に作ってほしいなと思っています。

デジタルが「自由にモデルを作ること」を後押ししている

若新 デジタルハリウッド大学のいろんなメッセージを見てると、「こういう大人になりましょう」っていうモデルがあるんじゃなくて、「それぞれが自分に合ったモデルを自分で作っていいんだよ」っていうメッセージがすごく素敵だなと思うんですよね。

杉山先生、人の働き方はもっといろいろあっていいっていうのを20年以上前に初めて提案したとき、世の中の反応はどうだったんですか?

杉山 世間は急には分かんないと思ったから、それは裏テーマにしていました。

若新 なるほど。最初からいきなりは言わなかったんですね。

杉山 言わない。だけど、デジタルのツールが自分で使えるようになって、自分の言いたいことが自分で表現できるようになると、少し自由になるんですよ。

要するに、一個人でもとりあえずホームページを作って何か意見を書いたら、それを誰かが読んで、そうだねって言ってくれるかもしれない。いまの中学生には当たり前だけど、昔はそういうことはなかった。半径5mくらいの友達しかいなくて、みんなに「俺が言いたいことが伝わったらいいな」と思っても、なんの方法もないよね。すごく注目されるようなことだって、ずっと大人になるまで待ってて、本でも書いて、やっと伝わるわけじゃないですか。でも、それがいまは中学生でも高校生でもやれちゃうっていうことは、革命的ですよね。

若新 なるほど。以前は何か人に発表しようと思っても、いきなり本を出せるわけでもないし、新聞に記事を載せられるわけでもないから、できなかった。いまはそれをみんな自分で自由に作れて、それ自体が「いろんな意見があってもいい」ことを後押ししてくれてるわけですね。

杉山 そうです。そのころもいつも言ってたけど、「君はこれから、お父さんやお母さん、周りのみんなが『ひどい、駄作だ』『なんじゃこれ』って言うような作品を作るかもしれない。でも、ネットに出したら、どこかの国の人たちが『最高だ』って言って1万人くらいファンがつくかもしれないから、1万人から10円ずつもらったらお金が入るよ」ってね。

若新 確かにね。素晴らしい話。僕も田舎の山奥で生まれ育ったんで、「お前みたいなやつは絶対にまともに生きていけない」って言われてたんですけど、こういう時代になったんで、たくさんの人にダメだと言われても、ほんのちょこっと「それいいね」って言ってくれる人がいると、それで生きていけるわけですからね。

杉山 そうそう。だから、若新さんを好きになる人が1000人に1人でも、全員集めるとすごい人数なんだよね、いまは。

若新 昔は、みんな親元を離れて好きな所にも行けなかったし、地元の学校を出たら近くの会社とか工場で働かなきゃいけなかったから、そこで1000人に1人にだけ気に入ってもらえたところで、生きていけなかったんですよ。10人中5人くらいに「いいよ」って言ってもらえないと。

杉山 それって、その1人以外は、私たちのことはどうでもいいか嫌いだっていうことだもんね。それは生きづらいね、田舎じゃあね。

若新 そうなんです。中学校では「こういう型を身につけなきゃダメだよ」ってことを部活や授業で学ぶと思うんだけど、それじゃなくてもいいし、いまは時代がみんなにそれを可能にさせてくれてるからね。

理想のモデルが分からなかったら「ワクワク」で決める

若新 このデジタルハリウッド大学に入学したての学生は、世の中の期待じゃなくて自分が作りたいものを作るために、どんな練習から始めるんですか?

杉山 最初はそれがない人もいるんですよ。でも、いまは世の中がとにかくコンピューターを利用したほうが良さそうだという流れじゃないですか。だから、学んでみたら何か決められると思う人もいるんですよね。あとは彼らに、いろいろ世の中のことを見て「これが良さそうだ、これが得しそうだ」っていう考え方はやめろと伝えるんですよ。

若新 これが得しそうだとか、これが世の中的にいいとかって考えちゃいけないと。

杉山 考えるんじゃなくて、最初は片っ端から、いろんな分野の基礎の出だしだけをバババッていろいろやるんですよ。そして、一番ワクワクしたものに1回のめり込む。そこから見つけていこうと言ってますね。だから、勉強して決めるなって言ってます。

若新 ワクワクで決める?

杉山 そう、ワクワクで決める。もうモデルが見えている人もいるんですよ。だって「ピクサーに行ってCGを作りたいです」って言ったら、もう自分のモデルとかいらないじゃない。ハリウッドに行って映画監督になりたいですと言われたら、もう頭の中にバッチリモデルあるでしょ。そういう人には「じゃあこれとこれを勉強して、これをやっちゃえ」みたいな、具体的なアドバイスになりますよね。

若新 だから最初は、自分にとっての理想が分かんなかったら、頭であんまり考えずにワクワクすればいいと。

杉山 自分がワクワクしたかどうかは分かるじゃないですか。「うわ、おもしれえな」って思うのは本人だから。

若新 好きなことをしてるときとかね。僕は、結構これは大事かなと思いましたね。だから、みなさん「何言ってんだ」と思ってるかもしれないけど、自分にとっての理想がよく分かんなかったら、これをやっていたらワクワクするっていうものを見つけたらいいのかもしれないですね。

じゃあみんな早速、そのワクワクする自分の理想のモデルを勝手に作るってことをやってみてください。

これは、さっき言ったように自分の理想なので、もう分かってると思うけど正解はないです。こういうモデルが正しいです、っていう答え合わせはないから。みんなが「これだったら中学生っておもしろくなるんじゃないか」とか、理想みたいなのを、ぜひやっていただきたいと思います。

中学生が使用したワークシート 作成:若新雄純

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