「大人の知らない自分の世界を本にする」企画会議 〜中二インターン×千葉県船橋市立中学校 ポプラ社編〜
4日目は、『かいけつゾロリ』や『おしりたんてい』でおなじみのポプラ社です。ご登壇いただいたのは、宣伝プロモーション部・山科さん、児童書事業局編集部・門田さん、同編集部・松田さんのお三方。
この日は「大人の知らない自分の世界を本にする」をテーマに、中学生が出版社の社員となって“企画会議”に臨みました。おそらく親も先生も知らない自分の“好き”を事前に企画書としてまとめ、何人かがプレゼンテーションを行い、実際の編集者さながらのリアルな仕事に触れました。
さらに、企画会議で選ばれた生徒の企画を取り上げ、全員で宣伝用のキャッチコピーを考えて発表しました。“個人の好き”を“みんなの好き”にするためのプロモーションを体験し、それぞれの着眼点の違いを楽しみました。
冒頭で、ポプラ社の紹介や出版社の仕事の説明をしていただきました。
山科:ポプラ社は、1947年に戦争から帰ってきた田中さんと久保田さんが創業した会社です。戦場で、2人は夢を見たそうなんですね。戦時中は、おもしろいだけの本は禁止されていて、何か学びがあるような本しか読めなかったそうなんです。二人はとにかく心からおもしろいと思える本が読みたくて、戦地で夢にまで見たそうです。そんな想いでポプラ社を立ち上げました。
ポプラ社の本は、大人が子どもに読ませたいというよりは、子どもたちが心から読みたいと思えるものが多い。それは、そうした創業の歴史があるからだと思っています。
続いて、出版社がどのような仕事をしているのか、どんな部署があるのかについて話していただきました。
門田:やっぱり企業なので、いまどういう本が求められていて、何を作ったら売れるかなというところから企画を考えます。例えば、いまは“ステイホーム”と言われているので、「家の中でどんなことをしたら楽しめるかが分かる本を作ったらいいんじゃないかな」「じゃあ、いろんなハウツー本にしようかな」とか。そのほかに著者、値段、タイトルなどを考えて、企画を起こします。それを企画会議でプレゼンして「いいんじゃない?」とか「別の切り口がいい」とか、そういう意見を取り込んでもう1回考え直して、企画がGOとなったら、書いてくれる人に依頼に行きます。
山科:今日みなさんと行なうのは、かなり企画会議に近いですね。「大人の知らない自分の世界を本にする」というコンセプトで考えてもらいましたが、とてもおもしろかったです。
ここから、中学生が事前に取り組んだ企画を発表していきます。
前半:「大人の知らない自分の世界を本にする」 企画発表
今回、発表してくださったのは9名。その一部をご紹介します。
◎滝口さん『Nephriteが語る プロゲーマー年表』
僕が紹介したいのはネフライトさんという、プロゲーマーやYouTuberとして活動している方です。この人はゲームをすごく楽しそうにやっていて、見ているとこっちまで楽しくなります。プロゲーマーのことをみんなまだよく知らないと思うので、もっと知ってほしいです。
門田:ネフライトさんはとても人気で、ほかにも企画があがっていました。滝口さんは、ネフライトさんの信念でもある「ゲームは楽しく」を見ていると自分も楽しくなってくるっておっしゃってたんですけど、それを聞くとこちらも楽しくなってくる感じがしました。この人の魅力を伝えながらゲームの魅力も伝えられそうで、すごく読んでみたいと思う企画でした。
◎児玉さん『かおだけがイケメンでわない』
顔が良くないという理由で、自分はかっこよくないと思っている人がいるんですよ。たしかに顔はかっこよくないかもしれないけど、スタイル、姿勢、性格で補えば、“ブサイクなイケメン”になれると思うんです。僕は、人は外見ではなく中身だと思っているので、この本を作ろうと思いました。
松田:この企画から、児玉さんの信念を感じたんですよね。好きなものというよりは、「自分が思っていることを伝えたい」というのが見えてきたし、タイトルもキャッチーで、「なんだろう?」と思わせるインパクトがありました。
しかも、著者候補がイケメンな横浜流星さんなので、横浜流星さんにどうやってこのメッセージを伝えるんだろうとすごく気になりました。たしかに横浜流星さんはかっこいいけど、かっこいいだけじゃないんだよってことをどう書いてもらうのか、そのあたりを企画として詰められると、すごくおもしろい本になるんじゃないかなと思います。
なかにはポプラ社に「この人と本を作っちゃえばいいのに」と言わしめる企画も飛び出し、自由に発想することの楽しさ、普段あまり知ることのない友達の“好き”や、それへの熱量に圧倒されているようでした。
山科:今日、僕らは教える側だと思っていたんですが、むしろ僕らが教えてもらうことの方が多くて、ビジュアルのセンスがいい人がいたり、キャッチコピーのセンスがいい人がいたり、企画の趣旨にそって「大人はこれを知らないだろう、でも私はこれが好きなんだ」という提案がしっかりできていたので、素晴らしいと思います。発表していない方の企画にも、うなるものがありました。
後半は、発表してもらった企画の中から1つを取り上げ、その本のキャッチコピーを考えていきます。
後半:伝わるキャッチコピーを考える
山科:「おもしろいを伝える」ということを考えてみたいと思います。自分だけがおもしろいと思っていることを、どうやったらたくさんの人におもしろいと感じてもらえるか、これは「マーケティング」と言われるもののひとつです。
そこで、キャッチコピーを考えてもらいたくて、1つ企画を選ばせてもらいました。
取り上げたのは、『進化したドラえもん』という企画。これを考えた栢森(かしもり)さんは、小さいころからずっとドラえもんが大好きで、いまのドラえもんと昔のドラえもんを知ってほしいという思いで企画したそうです。
山科:キャッチコピーを考えるにあたっては、どんな世代の人が買いそうか想像したり、この本のどこをアピールするかを考えることによって、キャッチコピーも変わってきます。
誰にとってもなじみのあるキャラクターだからこそ、ドラえもんに対する個人の印象や考え方の違いが表れそうです。
それでは、中学生が考えたキャッチコピーの一部をご紹介します。
◎飯田さん『これが、古今ドラ集』
全世代の人がドラえもんを知っていて、これは世界に誇れるものだと思うので、全人類が買うと思いました。
門田:素晴らしい、こちらでも絶賛です。短いのにとても良く伝わってくるし、古典の名作になったんだなという感じがしました。
◎加藤さん『あなたがみたのは、いつのドラえもん?』
山科:シンプルに素敵ですね。いまはキャッチコピーだけを考えてもらってますけど、実際は、これにどんな絵を合わせるのかも関わってきます。
1巻目のドラえもんは、頭が今よりも小さくて胴体が長いんですよね。しかも、どら焼きじゃなくて餅を食べてるんですよ。それが、だんだん頭が大きくなっていったという進化の過程をビジュアルで表現して、その上にこのコピーを載せると想像がつくなと思いました。
◎米内さん『変わったんだよ、ぼく。たまにはぼくのこと、思い出してね。』
みんな第三者からの視点でキャッチコピーを書いていたので、ドラえもんからの視点で書いてもいいんじゃないかなと思って、これを考えました。
門田:「まさかドラえもんに話しかけられるとは!」と、こちらも沸いています(笑)。すごく掴まれました。しかも、それを戦略的に考えたところが脱帽です。
ポプラ社の方に「負けました」と言わしめる、プロ脱帽のキャッチコピーが多くありました。こうして、“自分の好き”を“みんなの好き”にするためのプロモーションを体験し、それぞれの着眼点の違いを楽しみました。
山科:想像以上の出来でした。他人の企画のキャッチコピーを考えるって、すごく難しいと思います。ドラえもんっていうキャラクターはメジャーですけど、そのいまと昔を比べる本の企画を伝えるっていうのは、簡単なようで難しかったと思うんですよ。でも、僕たちが想定した以上に理解度が高いし、キャッチコピーとしてもレベルが高いのでびっくりしました。
最後に
最後に山科さんから、“自分の好き”を“みんなの好き”にするための、伝え方の重要性を教わりました。
山科:今日、みなさんに企画やキャッチコピーを考えてもらいましたが、「伝える」というのが裏のテーマです。私たちも、もともと本や漫画が「好き」っていう気持ちで出版社に入ってきている人がほとんどです。自分がおもしろいと思ったことが本になって、お客さんに買ってもらったり、SNSに感想を上げてくださったり、映画になったり、どんどん広がっていくのを体験できるのは、本当に楽しいです。
それには何が大事かというと、伝え方なんです。「これはおもしろい」と思って友達に話したけど、「あれ、ピンと来てないぞ?」ということがあると思います。そのときに、伝え方をちょっと工夫するだけで、伝わる深さとかスピードが変わってくるんですよね。ただ、みなさんは本当にセンスがあると感じたので、今日は私たちのほうがいろんなアイデアをもらえたと思います。ありがとうございました。
次回は、リクルートキャリアによる「自分さがしの旅のはじまり」と題した、自分のいろんな側面を知るためのサイコロワークショップ。自分に見立てた立体図を作成し、“人は多面的であり、みんなそれぞれ価値観がある”ということを、楽しみながら理解していきます。