2020年夏期・振り返りワークショップレポート〜第二部②:中学生が考えた「新しい『中学生モデル』」の発表〜
第二部②:中学生が考えた「新しい『中学生モデル』」の発表
1番目:呉さん
若新 それじゃ、呉(くれ)さんからお願いします。まずは「新しい考え方」から。
呉 「固定概念がない」。
若新 固定概念がない中学生ね。いいね。なんで中学生は固定概念がないほうがいいの?
呉 固定概念という当たり前にとらわれて、大切なことに気づきにくいんじゃないかと思って。
実際に、友達と遊びに行ったときにコンビニに寄ったんですね。200円くらいの物を買ったとして、それが200円の価値があるのかという話になったんです。「実際、原価はどうせ10円とか、それくらいだろう。そこに人件費とかいろいろ入ってくると、どんなに安くなったとしても、100円ぐらいだろう」とか、そういう固定概念があると思うので、もっと安くできるだろうってあんまり考えないんじゃないかと思って。
若新 値段についても、何円なのが当たり前って思いすぎないことが大事だと。おもしろいね。
呉 あとは「自分はみんなと違って同じ」。矛盾したことのように思えるんですけど。
みんなが持ってる理想や意見は、それぞれ絶対違うと思うんです。でも自分が目指したい、こうしたいという世界は似てるんじゃないかなと思ってるんですよ。例えば、「自由にできる」とか。そういう最終的な理想は同じじゃないかなと。それに対して道が違うだけだと思うんです。
若新 なるほど。
呉 あとは「自分が世界の中心、救世主だと思え」。
若新 中学生は「みんな自分が主人公で救世主だ」と。いいね。「これから未来を作ろう」って、みんな入学式とか朝礼で言ってるのに、その割には主人公感を出せない中学校生活ってなんなんだって、確かに思うね。
呉 はい。自分が世界の中心なんだって思わなきゃ何もできないというか、大きな行動は起こせないんじゃないかなと思っていて。自分が欲しい法律を定めようとか、無謀なことを抱くことが社会をいい方向に持っていくんじゃないかなと思っているんですね。
最後に「自分を素数だと思え」なんですけれども、「自分を何かで割ることはできない」。
若新 かっこいいこと言うなあ。すごいな、「自分を素数だと思う」。
呉 自分にぴったり当てはまるものってなんだろうと、いま相当悩んでるんですよ。なので、周りが自分を理解できなくてもそれは当たり前なんで、「素数なんだな」と(思えるといい)。
若新 おもしろい。周りの理解というもので割り切れてなくていいと。
呉 自分は素数だから「別にほかの人と合わなくていいし、人の意見で割れなくていいじゃないか」と。でも、それを“取り入れる”ことはできる。つまり「掛けることはできても、割ることはできない」。
若新 何、待って待って(笑)。すごいねそれ、名言っぽい。「自分は掛けることはできるけど、割ることはできない中学生」、どっかの中学校で掲げたほうがいいよ。
それは確かにそうだよね。掛け算は可能だもんね。でも中学生の多くは、ちゃんと割り切れる存在じゃなきゃいけないと思ってるかもね。親の期待とか学校の決まりとかで割り切れる、みたいな。……いいや、俺のコメントはいらないね。素晴らしい。
呉 ありがとうございます。ということで「新しい考え方」はこれで以上です。
次に「新しい行動や振る舞い方」。まず、僕の中学校への不満みたいなものなんですけど、「自分がやりたいようにやってもいいじゃないか」と。「嫌なことは嫌と言える、思える」。
固定概念の話に似てるんですけど、クラスに馴染むためにはやっぱりみんなに合わせて、絶対に仲間外れにされないようにって思っちゃうけど、それってみんなも同じじゃないかと思うんです。「みんながみんなに合わせていく」っていう、なんかおかしい状況になってるからこうなっていくんじゃないかと思っていて。だから、相手に「嫌なものは嫌だ。自分は違う」と言える。それで相手も「そうだね」ってしっかりと言える力があるといいんじゃないかなと思います。社交性は、いまはなくてもいいんじゃないかと思います。
次に「その他の特徴」は、「変人みたいだけど違う」。
例えば、さっきまで喜んでたのに、ある一言でいきなり怒り出した。行動が明らかにおかしくて、喜怒哀楽が激しい。情緒不安定だと思われるかもしれないけど、それはなぜか。
それは、そういう感情を見せることによって、もっと伝わるんじゃないか、分かり合えるんじゃないかと頭で考えた上での行動で、そういう特徴があるのかなと。
若新 なるほどね。要するに、喜怒哀楽を出しすぎると情緒不安定だってすぐ言われるけど、「情緒があるからこういう人なんだ」って分かるっていうことだよね。
中学生に喜怒哀楽がないわけないじゃん。それなのに、学校では「あんまり出すな」って言われたりね。出してると「お前どうしたんだ? 情緒不安定なのか?」って思われちゃう。喜怒哀楽があるから、この人はこう思ってるんだと分かると。
ありがとう。杉山先生、いかがですか?
杉山 もう、すべてが名言すぎて(びっくりしました)。僕から見れば、短い人生の中でよくその境地まで来たもんですよ。だって、物心がついてまだ10年くらいしか経ってないんじゃないのかな。すごいスピードで成長する環境にいたんだなって思います。
呉 うれしいです。
若新 世の中まだまだそういう発言を自由に許してくれないところも多くて大変だと思うけど、せっかくだから楽しんで変えていってほしいね。ありがとうございます。
呉 ありがとうございました。
若新 はい、じゃあ次お願いします。髙野さん、どうぞ。
2番目:髙野さん
髙野 「新しい考え方」は、「自分を持つ」っていうか「いまの時点では気にしない」、そういう感じです。
若新 いままで他人を気にしてきた?
髙野 いや、全然気にしてないです。だから、ある程度他人と切り離すっていうか、少しは距離を考えなきゃいけない。何事も行きすぎるのはあんまり良くないじゃないですか。
若新 それ、めっちゃいい話でさ。誰かが「“人の間”と書いて人間だ」って言ったように、「自分と他人の微妙な距離感にずっと悩みながら生きてるのが人間だ」って言われたりするんですよね。人間は自分だけでは完結しないんだけど他人とべったりでも生きていけないから、微妙な距離、いいよね。
でも中学生のときは、自分よりもまず周りから考えましょうってなりすぎるから、周りを切り離して自分のことを考える時間がもっと必要なんだけど、それを切り離しすぎないっていうことだね。
髙野 ちょうどいい感じで。
若新 ちょうどいい切り離し方ね。いいね。
髙野 あと「新しい行動(や振る舞い方)」なんですけど、「堂々として自分に合わせたっていい」。なんでもやっていいわけじゃないけど、自分らしく堂々としてる感じで、何かを一緒に楽しめるような、自分と同じような仲間を見つけていく。
一緒に遊んでて楽しいやつっているんですよ。周りから見たら絶対変な遊びなのに、一緒に一日中できるとか。そういう友達って少ないわけじゃないですか。
若新 それ、めっちゃいいな。僕が中学生ときはインターネットがなかったから、通ってる中学校の中でしかグループを作れなかったわけ。「この中から気が合う友達を選びなさい」みたいな。
本当に嫌な思い出なんだけど、中一のときに全員にアンケート用紙が配られて、「いま自分が仲良くしていると思っている子の出席番号を書きなさい」みたいなことがあったんですよ。
あれ最悪ですよね。みんなが周りをジロジロ見てると、先生に「相談せずに書け」って言われたりね。それで片思いだったら悲しいわけよ。なのに、クラスの中でちゃんと自分のグループを作っとけって言われるんですよね。でも、いま言ってくれた“仲間を作る”じゃなくて“仲間を探しに行く”っていうのが、いまのやり方なんですよね。インターネットがそれを一気に可能にしたんですもんね。みんなが生きている時代って、そこに仲間ができなくても見つけに行けばいい。
髙野 「その他の特徴」は「自由な発想」くらいです。
若新 おもしろかったな。ありがとうございます。みんなすごすぎるよ。もう自信を持ちまくってほしいくらい。
みんなの話を聞いて思ったのは、みんな自分の言葉や世界観を持ってる。仲間を探しに行ける時代に生まれたんだから、仲間を探しまくってほしいな。
では次、宮本さんお願いします。
3番目:宮本さん
宮本 僕が考えた「新しい考え方」は、中学生モデルというか中学校の校則についてなんですけど、「服装自由、髪色自由、移動手段自由」。
全国的に見ると服装や髪色が自由な学校は少ないけど、勉強するなら別に関係ないなと思って。僕の学校では全部自由なんです。服装が自由だから勉強できない、頭悪いっていうわけではないと思うし、髪色がピンクだからって頭悪いわけじゃないから、そこは自由でもいいのかなって思います。
「移動手段自由」っていうのは、僕の家から学校までは結構近いので自転車で行きたいんですけど、僕の家はその基準から何メートルか離れちゃってるから、電車で行かなきゃいけないんです。
若新 言っても認めてもらえないんだ。大人はギリギリの基準にこだわりすぎだもんね。
宮本 次の「新しい行動や振る舞い方」には僕はいっぱい書きました。まず、中学生だからまだやっちゃいけない、まだできないっていうのをやめてほしい。1回やらせてみてから判断してほしいです。
若新 素晴らしいね。やる前に「中学生なんだからまだだめだよ」って言われたことが多いっていうことね。
宮本 あと、また大人にお願いみたいなことになっちゃうんですけど、コンプレックスに対しても同じで。
若新 中学生の?
宮本 はい。そういうのを聞く時間を作ってほしいなと。僕にはいっぱいコンプレックスがあるんですけど、なかなか人に話せないじゃないですか。だから、先生とかが理解してほしいなって。
若新 なるほどね。子ども一人ひとり真剣に悩んでることがあるのに、同じことをやらされて、同じように行動させられるってことだよね。全部は解決できないかもしれないけど、僕には僕の悩みやコンプレックスがあるっていうことは知ってほしいよね。
宮本 あと、似たような話になるんですけど、人それぞれ苦手なこと、得意なこと、好きなことを認めてほしいなと。
僕、入学初日の自己紹介で「アニメ大好きです」と言ったら「アニオタ」っていう称号がついて、そこから数ヶ月間ずっといじられてきたんですよ。本当にそれが嫌で、しばらくアニメを観なくなったんです。本当に自分の中でもアニメが嫌いになりそうになりました。でもいまはもうバリバリ観てるんですけど、そういうのを本当にやめてほしい。
若新 「レッテル」ってやつですよね。中学生にありがちなのは、みんなすぐにグループ分けして「あいつらはああだ」って言ったりするよね。いま思ったけど、髪色がどうとか服装の禁止とかするくらいだったら、「レッテル禁止」にしたほうがいいよね。いまさら髪の色とか制限してないでレッテル禁止にしろよな。
宮本 最後に「その他の特徴」ですけど、「男女差別、人種差別、さまざまな差別をなくしてほしい」。
差別っていうと、大人たちの世界と思うかもしれませんけど、男女差別って学校の中にもあるんです。例えば「男子更衣室がないのに、女子更衣室はある」とか。人種差別も最近話題になっていますけど、この前ニュースで見たのが、黒人だからという理由で中学生や高校生のときにグループから外されたりしたことがあるって言ってる人もいて。そういう差別とか偏見をなくしてほしいなって思います。
若新 髪色とか服装とか、家から何キロ以内じゃないとチャリンコはダメとか、先生はそこじゃないところに子どもたちと本当にちゃんと向き合って、ちゃんと作っていってほしいっていうことだよね。
ありがとうございます。みんなもう素晴らしすぎて何もコメントできません。1個も忘れたくない。実際みんなが言ってくれたことはすべてが魅力的で、最高でした。
杉山さんどうでしたか?
杉山 いや、とても良かったですね。
1つ言いたいのは、みんな「自分が思ってたことは間違ってないな」と、今回の経験ではっきり思ってくれたと思うんですよね。ゼロから気づいたというより、本当はこうじゃないかなと思ってたことが「やっぱりそうじゃないか」みたいな。
みんな、言語化がすごいね。バッチリ言葉にできていましたね。
若新 たぶん、いろんなインターンでも「君はどう思う?」とか「君だったらどうするか」って問われることがたくさんあったと思います。いまはまだ学校ではあまりないと思うんだけど、ぜひそういう機会を増やして、自分の思ってることを自分で言えるようになってほしいですよね。
杉山 僕の大学でも、中学生や高校生と一緒にプロジェクトをやることがあるんだけど、いろいろヒアリングしてると、最後に先生がちょっと否定的なことを言うことが多いらしいんですよね。「いや、世の中ではそうじゃないんだよね」って言っちゃう。「それはそれでいいね」って言う先生があんまりいない。
きっと先生って、何でも知ってなきゃいけないっていうプレッシャーがどこかにあると思うんですよ。だから言っちゃうんだけど、教員は教員のコミュニティの中にいて、知り得ることはそんなに広くない。教員以外も、みんなそうなんですよ。自分の世界では常識なんだけど、ちょっと外に出ると非常識っていうことばかりなんですよね。だから、相手の言ってることを否定しないという風潮に変わってくれればいいですね。
若新 なるほど。みんな、これからいろんなところで大人に会うと思うけど、もしかすると否定から入らない人と話していくのは大事かもね。
杉山 「いや、君それちょっと違うんだよね」みたいなこと言う人いるでしょ。
若新 俺が教えてやるよ、みたいなね。
杉山 それは、なんかつまんないなと思うんだよね。「そんな考えもあるんだね」って言ってくれる人がいいなと思う。
若新 ありがとうございました。みなさん、とはいえ、もし僕らが「もう中学なんて行かなくていいよ」って言っても、来週から行かなきゃいけないじゃないですか。なので最後に、実際にみなさんがリアルに生活してる「中学校」の中で今回体験したことをどう活かせるかを、現役の中学校の校長で一流の教育学者でもある藤川先生にお話ししてもらいます。